会社をクビになりました。
ここ数日の出来事。
楽しくなくなった。
いつもディスってくる人がいた。
それに傷つくこともあった、それが楽しいこともあった。
「衝撃の事実!ゆり、明日で最後」
係長から残業終了後に聞いた。
ゆりは、残業をしていない。
会社帰りに突発的に行くラーメン、婚活パーティー、占いに通ってみる趣味、おそろいで買った雑貨、バッグ、ユニバーサル。
仲が良いはずだった。
聞いてない。
家に帰って、LINEしてやろうかと思ったが、やめた。
なんで、言ってくれなかったんだろう?
眠れなかった。
次の日、彼女が辞める日。彼女はわたしの唇の赤さを指摘してきた。
彼女の周りには人がいて、わたしは普通に返した。
荒れててかゆい。と。
廊下で二人きりになったとき、しんみりするのが嫌で笑いながら、言った。
「昨日、係長から聞いたぞ!!!辞めるって、ちょっっ~~」
「あははは、係長経由だったか、辞めた後に気づけば面白いと思ってたのに~~」
あぁ、本当なんだ。
楽しかったのに、破天荒すぎる彼女はこの環境に飽きてしまったんだろうか。と思った。
仕事をこなしている最中、まさよが耳元でこっそりささやいてきた。
「今日帰り空いてる?」
すぐに分かった。彼女が最後にとご飯に誘ってる。
一日があっという間だった。
殆どの人が、辞める当日に、その事を知った。
制服、靴はリサイクルしない。
彼女はわたし以外にいろんな人に囲まれながら、制服と靴をゴミ袋に捨てていた。
笑っていた。
「まゆみは泣くから、絶対にギリギリに言おうと持ってたんだ」
わたしも泣きたい。
なんで?どうして?
待ち合わせのご飯屋に来た。
ショッピングモール内のご飯屋で、すぐにご飯屋に入らず呑気に店を回り始めた。
わたしと、まさよと。ゆり。
いつもと変わらない。最後なのに。
わたしは雑貨を衝動買い。
楽しかった。
「最後って感じしないなー」と、彼女が言った。
ご飯屋。
ゆりは、お菓子が好きだから、最後だから、たくさんお菓子をあげた。
「うわ、お菓子くれるとかレアじゃん」
「うん、そうだよ。わたしお菓子買わないから、美味しいか分からない」
聞きたいこと、言いたいことはたくさんある。
「次の就職先決まってるの?」
「うん」
「富山市内?」
「当たり前じゃん」
「なんで、辞めようと思ったの?」
「辞めようとはしていない。契約を切られた。つまり、クビ」
変だった。
うちの会社はずっと派遣を募集している。
発達障害のグレーゾーンを普通の人として採用するぐらい、万年人手不足だ。
その人は毎日のように発狂したり、泣き出したり、仕事の内容も限られているのに通常料金。切られるならそっちだろう。
「わたし、いつも遅刻ギリギリだし、態度でかいし、注意されても直さない」
正直、彼女の勤務態度は褒められたものじゃない。よく怒られているのを見た。
だが、発達障害のグレーゾーンの人よりは圧倒的に仕事は出来る。賃金は一緒だが勤務歴は9年目だ。
「新工場に移動するメンバーに共通してること、何か気付かない?」
まさよは全部知っているようで、静かに話を聞いていた。
「ルーズなのと、シフト勤務断った人」
「そうそう、ルーズ、まさよね。課長が気に入らない下っ端社員は異動、派遣はクビってわけ。発達障害のグレーゾーンを残したのは、嫌がらせかな?係長が言ってたから間違いない」
絶句だった。
課長の独裁。
「あんたは課長のお気に入りだからね、異動なし」
「あんなクソたぬきに気に入られても気持ち悪いだけ」
「知ってる。ごますってるわけでもなく、純粋に大変そうで助けたい人を助けてるだけだもんね、あんたは。それを評価されてる」
あぁ、この人は、ちゃんと気づいている上で、仲良くしててくれたんだ。
凄い洞察力。真面目にしないと仕事が熟せないことに気づいてる。
「わたし本当はそういうところ直したい。上手く利用されてることがある事も気づいてるのに」
「良いところだから直さなくても良いと思うけど」
「あのクソたぬき課長だけは、助けない」
「大丈夫でしょ?大好きで頼りになる直属の部下1,2は異動、3は退職。3はたぶんあの課長を見切ったんだと思う。逆に異動してくる2人は無知な上に1人は精神病んで2度診断書出して長期入院」
「ざまぁ」
「あんたが乱暴な言葉使うと、破壊力すごいね、真面目だから」
「でも、なんで辞めるの言ってくれなかったの?」
「だってクビだよ?可愛そうって言われるの嫌だし、かっこ悪いじゃん」
この人は、プライドだけを理由に、契約更新されなかった事を一人で受け止め、辞めなければならない事を心に秘めながら三ヶ月間誰にも言わず、職安行って履歴書書いて面接行って、本人の口から辞めることを聞いたのは当日で、笑ってた。
もちろん、本来なら、辞める事を周りに伝えるのは前以てが普通だと思うけど。常識だけど。
……なんて強い人なんだろう。と、わたしは思った。
あのクソたぬき…課長は人を見る目がない。
彼女を上手く育てる器量がなかった。
最初から聞き分けが良い子しか飼い慣らせない。
情けない人。
「次はちゃんと正社員なんだ。続くかわかんないけど。最初はおしとやかにしてないといけないし、遅刻ぎりぎりもダメだし。辛…っ。でも、親が喜んでくれた」
一通り聞いてどうでもいい雑談してから、ご飯屋をでた。
「このメンバーならいつでも会えるけど、まゆみにはもう会えないのかな」
……そっか、これからも仲良くしてくれるんだな。だから、辞めた後気付いたら面白いって言ったのか。デカすぎるネタだった。
最初から、また会う気だったんだ。この人。
「まゆみ、寂しがってた。子供なんとかするから、ご飯行きたいって。なんなら家に来ても良いって言ってたよ」
「え、ほんと!じゃぁ、まゆみに合わせよう」
「またね、おやすみ」
残る人と異動する人と、転職する人と、皆バラバラだ。
ホントにいつもご飯に行っていたように、手を振った。
わたしは車に乗って、二人の車を見送った後、泣いていた。
泣きたいのは、ゆりの方かもしれないのに。
きっとあの人は、わたしとまさよなら、しんみりせずご飯で出来ることが分かっていた。
でも、わたしは弱い。それを知っているんだろうか?
課長が、あのクソたぬきが憎くて憎くて悔しくて悔しくて仕方なかった。殺してやりたいぐらいだ。
朝、母親がわたしを心配してくる。
腫れた目の事情を話したら、それは「おめでとう」と言ってあげないと、と励まされた。
その通りだ。正社員おめでとう、だ。
「あんたには乱暴な言葉で素のままで話してたなら、相手も寂しいだろうね。あんたといるの楽だったろうね」
更に泣いて腫れた目は、花粉症とごまかすことにした。
あのクソたぬきの独裁で、ゆりがもういない職場。
いつも「モーニング」と挨拶してくる声も、アホなことをしても誰もツッコんでくれない。
「まちキャラになっちゃうな……」
誰かと話しても作り笑いで、よく漫画とかアニメとかで、灰色で描かれる表現。
本当に灰色に見えることってあるんだな……と、しみじみ思った。
ロッカーのネームプレートが既に剥がされていた。
周りの人が珍しくわたしに気を使ってると勝手に思ってたけどそうじゃなかった。
課長の采配に怒っていた。あれだけ仕事が出来る人を辞めさせて、どうやって仕事を回すのかと。係長まで怒り悩んでいた。
家に帰ってから気がついた。
そっか、もう、突発的にご飯食べてくるって事が無くなる。
ゆりとわたしは独身だからそれが出来た。
親に言った。
「これから、突発的に外食すること、無いから」
そう言って、わたしはまた泣いた。
寂しい。寂しい。
「仕事、楽しくなかった」
親がいつものように結婚を促してくる。
「転職したら?ご飯作る所に」
わたしは弱りすぎていて、そうだね。その方が寂しくないかも。と答えていた。
そうだ、ゆりともう一度、婚活頑張るかって話してたんだ。
すこし落ち着いて、現在に至る。
彼女にとって転職は、人生の転機だろう。
わたしにとっても転機なのかもしれない。
仕事が楽しくなくなったんだ。
仕事はお金だけと割り切って、別のことに目を向ける時期なのかもしれない。
終わり。
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